緊張すると息が浅くなり、ほっとすると自然に息がほどける。
呼吸には、そのときの気持ちが表れることがあります。
考えごとが続く日に、少し立ち止まって一息つく。
「深呼吸は心のストレッチ」として、日々に取り入れられる養生をご紹介します。
普段は意識しない呼吸に、気づくとき
呼吸は、眠っている間も、何かに集中している間も、意識せずに続いています。
一方で、緊張したときに息が浅くなったり、ほっとした瞬間に大きく息を吐いたりすることもあります。
「気づいたら息を止めていた」
「考えごとをしていると、胸のあたりが詰まる感じがする」
そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。
呼吸の変化には、気持ちだけでなく、姿勢や運動、身体の病気なども関わります。呼吸が気になることだけで、心の不調と決めることはできません。
ただ、忙しい日が続いているときには、呼吸を通して自分の緊張に気づくこともあります。
気持ちが変わると、呼吸も変わる
怒りで気持ちが高ぶると、呼吸が速くなる。
緊張すると、胸がドキドキして息が浅くなる。
安心できる場所では、自然と息がゆっくりになる。
気持ちと呼吸には、このようなつながりがあります。
東洋医学でも、感情と身体の働きを切り離さずに捉えます。呼吸は、身体をめぐる「気」の働きとも関係するものとして考えられてきました。
ここでいう「気」は、単に気分だけを意味する言葉ではありません。身体の働きや活動を捉える、東洋医学の考え方の一つです。
気持ちが張りつめているとき、呼吸や胸まわりの感覚にも目を向けてみる。
それは、自分の状態を知る一つの手がかりになります。
「病は気から」を、自分を責める言葉にしない
「病は気から」という言葉があります。
気持ちの変化が身体にも影響することを表す言葉ですが、病気を「気の持ちよう」だけで説明することはできません。
例えば風邪は、ウイルスによる感染症です。落ち込んだから風邪をひいた、前向きに考えれば早く治る、と言い切れるものではありません。
一方で、気がかりなことが続いて眠れなかったり、食欲が落ちたりして、休息や食事が十分に取れなくなることはあります。
気持ちと身体は、日々の暮らしの中で影響し合っています。
だからこそ「気持ちが弱いから」と自分を責めるよりも、眠れているか、食べられているか、休む時間があるかを振り返る。
東洋医学の養生も、そうした暮らし全体に目を向けることから始まります。
怒りや悲しみが、心に残ることもある
嬉しかったことや楽しかったこと。
悲しかったことや、納得できなかったこと。
同じ一日の出来事でも、心への残り方はさまざまです。
過去の言葉を何度も思い出したり、終わった出来事について考え続けたりすることもあります。
東洋医学では、喜び・怒り・思い悩み・悲しみ・恐れなどの感情と、身体の働きとの関係を考えます。
ただし、喜びは良い感情、悲しみや怒りは悪い感情、と分けるものではありません。怒りには自分の境界を守る面があり、悲しみは大切なものを失ったときに自然に生まれる気持ちでもあります。
春夏に外へ向かう動きがあり、秋冬に内へ向かう動きがあるように、人の気持ちにもさまざまな動きがあります。
一つの感情が長く続いて疲れているときには、その感情を否定するより、少し休める時間や場所があるかを考えてみてもよいのだと思います。
頭を使う時間が多い日々に、身体を動かす時間を
仕事でも生活でも、画面を見たり、情報を読んだり、考えたりする時間は少なくありません。
身体は同じ場所に座っているのに、頭の中では次々に考えごとが続いている。
そんな日には、休んでいるつもりでも、気持ちが休まらないことがあります。
東洋医学では、考えることや感情の働きも、身体全体との関係の中で捉えます。
頭を使う時間に加えて、歩く、伸びをする、家事をするなど、身体を動かす時間をつくる。
考えごとから少し離れ、足の感覚や周りの景色へ意識が向くことで、気持ちが切り替わることもあります。
何かを解決するためだけでなく、今いる場所に意識を戻すために身体を動かす。そんな時間も、日々の養生の一つです。
過去や未来を考えられる、人の心
一緒に暮らす犬たちを見ていると、遊ぶ、休む、外の音に反応するなど、目の前の出来事に気持ちを向けているように見えることがあります。
もちろん、犬にも感情や記憶はあり、その内側をすべて知ることはできません。
それでも、その姿から「今の自分は、どこに気持ちが向いているだろう」と考えさせられます。
人は、過去を振り返り、まだ起きていない未来を想像できます。
それは楽しみを見つけたり、これからに備えたりする力でもありますが、ときには同じ悲しみや不安を繰り返し感じることにもつながります。
頭では終わったことだと分かっていても、気持ちが追いつかないことはあります。
そんなときに、無理に忘れようとしなくても大丈夫です。
考え続けて疲れた自分に気づいたら、呼吸や身体の感覚へ少し意識を戻してみる。そのための小さな方法を、いくつか持っておくと助けになることがあります。
気持ちを休める、4つの養生
ここからは、日常の緊張をゆるめたいときに取り入れられる方法をご紹介します。
なお、息苦しさが続く、繰り返す、いつもと違う場合は、気分の問題と決めつけず医療機関に相談してください。突然の強い息苦しさや胸の痛みがある場合は、セルフケアよりも救急対応を優先してください。
1.胸に優しく手を当て、無理のない呼吸をする
まずは、楽に座れる姿勢で肩の力を抜きます。
胸の前にそっと手を当てたり、心地よければ優しくさすったりしながら、ゆっくり呼吸をしてみます。
たくさん吸おうと頑張らず、苦しくない範囲で自然に吸い、ゆっくり吐く。
「深呼吸をしなければ」と、呼吸そのものを頑張りすぎないことも大切です。
めまいや息苦しさが出る場合は中止して、普段の呼吸に戻してください。
胸に手を当てる感覚が落ち着かない方は、手を膝の上に置いたままでも構いません。
呼吸を通して、少し立ち止まる時間をつくる。
「深呼吸は心のストレッチ」という言葉には、そんな取り入れやすさがあると感じます。
2.午前中に、短い散歩へ出る
東洋医学では、朝から昼にかけては陽の気が盛んになる時間と考えます。
その時間に外へ出て、光や風、季節の変化を感じながら歩くことも、養生の一つです。
長い距離を歩く必要はありません。
例えば、近所を10分ほど歩く。
時間がなければ、玄関先やベランダで少し外の空気に触れる。
考えごとでいっぱいだった頭が、空の色や風の冷たさへ向くこともあります。
午前中が難しい日は、生活に合う時間で構いません。身体の調子や天候に合わせて、無理なく取り入れられる範囲で十分です。
3.気持ちが少し動く「好き」を持っておく
好きな音楽を聴く。
心地よい香りに触れる。
落ち着く場所へ行く。
動物や植物を眺める。
自分にとって心地よいものを、いくつか知っておくと、気持ちの切り替えを助けてくれることがあります。
東洋医学にも、感情同士の関係に着目する考え方があります。
ただ、悲しいときに必ず喜ばなければならない、ということではありません。
気分が大きく変わらなくても、ほんの少しほっとできる。そのくらいの変化でも、自分にとって休まる時間になります。
4.怒りや悲しみから、少し離れる時間をつくる
「考えすぎないようにしよう」と思っても、簡単には止められないことがあります。
怒りや悲しみが残るのは、それだけ自分にとって大きな出来事だったからかもしれません。
無理に気持ちを消そうとするよりも、そのことから少し離れて過ごせる時間をつくる。
散歩をする、温かい食事を取る、安心できる人に話す。今の自分にできそうな方法を選んでみます。
感情が揺れ動くことも、すぐには変わらないこともあります。気持ちの変化を急がせず、身体を休めることから始めてもよいのだと思います。
まずは一息、自分に戻る時間を
身体の痛みや疲れには気づいても、気持ちの疲れは後回しになっていることがあります。
「まだ大丈夫」と過ごしているうちに、肩に力が入り、呼吸が浅くなっていた。そんな日もあるかもしれません。
心と身体は、別々に動いているわけではありません。
身体を休めることで気持ちが落ち着いたり、安心できる時間を過ごすことで身体の力が抜けたりすることもあります。
忙しい日々の中で、胸にそっと手を当て、無理のない呼吸をする。
深呼吸は、心のストレッチ。
気持ちと身体に目を向ける、小さなきっかけとして。
まずは一息、自分に戻る時間を持てたらと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本日も皆様にとって素敵な1日になりますように。
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