風邪をひいた時や身体が疲れている時、胃の調子が悪い時。
「消化に良いから」と、おかゆやうどんなどの柔らかいものを選ぶ方は多いのではないでしょうか。
私自身も幼い頃から、身体が弱った時にはおかゆを食べるものだと教わり、何の疑いもなく過ごしてきました。
しかし、東洋医学を学び、日々さまざまな身体をみるなかで、柔らかい食事を流し込むことが、本当の意味で胃腸を労ることなのだろうかと考えるようになりました。
おかゆは本当に胃腸に優しい食事なのか
当院では、身体を労るための食事として、安易におかゆを勧めていません。
柔らかいものを流し込むのではなく、温かい食事をよく噛み、唾液を出し、胃で消化する。
身体が本来行う働きを使うことが、胃腸を整えることにつながると考えています。
胃腸の役割は、食べたものを受け入れ、消化し、身体に必要なものへと変えていくことです。
胃腸を労っているつもりで、すでに柔らかくなったものばかりを与える。
それは、胃が本来行う「消化する」という仕事を、身体の代わりに済ませてしまうことでもあります。
胃腸を休ませることと、胃腸の働きを使わなくすることは同じではありません。
身体の働きを代わり続ければ、胃腸は本来行うべき仕事を十分にできなくなり、かえってその働きを弱めることにつながります。
口から胃腸の働きは始まっている
胃腸の働きを考えるうえで、欠かせないのが「噛むこと」です。
食べ物を口の中でよく噛み、細かくし、唾液と混ぜてから胃へ送る。
消化は、食べ物が胃に入ってから始まるのではなく、口の中からすでに始まっています。
温かい食事をよく噛むことで、食べ物は唾液と混ざり、口の中で細かくなった状態で胃へ送られます。
唾液は食べ物の消化を助けるだけでなく、口や喉の状態を保つうえでも大切なものです。
ところが現代は、パンや麺類、加工食品など、あまり噛まなくても食べられるものが増えました。
食事中に噛まない人が増えたというより、噛まなくても食べられる食事そのものが増えているのだと思います。
冷たい飲み物と一緒に、柔らかいものを短時間で流し込む。
このような食事が続けば、噛むことも、唾液を出すことも、胃で消化することも少なくなります。
身体を整えるためには、口と胃腸が本来行う仕事を、きちんと使うことが大切です。
食べる力は、手足を動かす力につながる
東洋医学では、胃腸の状態は、手足や筋肉の働きとも深く関係すると考えます。
私たちは、食べたものから身体を動かす力をつくり、手足を使って生活しています。
噛む力が衰え、流動食になり、自分の口で「食べる」という働きが失われていくと、食べられるものの種類や量も少なくなります。
そして、流動食へ変わったことをきっかけに、一気に体力が落ち、立つことや歩くことが難しくなっていくことがあります。
胃腸の本来の働きである「食べること」ができなくなると、手足を動かす力にも影響します。
だからこそ、噛めるうちは、きちんと噛む。
胃腸をただ休ませるのではなく、身体が持っている働きを使い続ける。
それが、これから先も自分の口で食べ、自分の足で歩く身体を支えることにつながります。
身体が弱っている時こそ、温かい食事をよく噛む
胃の調子が悪い時や、病み上がりで食欲がない時には、無理にたくさん食べる必要はありません。
大切なのは、柔らかいものに置き換えることではなく、食べる量を調整することです。
おかゆやうどんだけで済ませるのではなく、少量の温かいご飯を、よく噛んで食べる。
具の入った温かい汁物や、卵、肉、魚なども、その時の身体に合わせて取り入れる。
身体が弱っている時こそ、炭水化物だけで済ませず、身体をつくるものを少量でも食べることが大切です。
食べる量が少なくても、自分の口で噛み、唾液を出し、胃で消化する。
身体が本来行う仕事を奪わず、適切に噛み、適切に胃で消化することが、胃腸の働きを取り戻すことにつながります。
身体にとって自然なことか、不自然なことか
身体のために行っていることが、かえって身体本来の働きを鈍らせていることがあります。
何が身体に良いのか分からなくなった時には、それが身体にとって自然なことか、不自然なことかを考えます。
歯があるうちは、自分の歯で食べ物を噛む。
唾液を出し、胃で消化し、食べたものから身体を動かす力をつくる。
これは人間の身体に本来備わっている、自然な働きです。
冷たいものを避けること。
よく噛んで食べること。
腹八分目にすること。
昔から伝えられてきた食事の基本には、身体が持っている働きを守るための知恵が詰まっています。
身体を労るとは、働きを奪わないこと
身体を労るとは、すべての働きを代わってしまうことではありません。
身体が本来行うべき仕事を取り戻し、その働きを使い続けられる状態にすること。
本来持っている働きを使い、その働きを失わせないこと。
食べ物を噛み、唾液を出し、胃で消化し、身体を動かす力へ変えていく。
その一つひとつの働きを、日々の暮らしの中で使い続けることが、身体を整えることだと当院では考えています。
毎日の食事の積み重ねは、今日の体調だけではなく、これから先も自分の口で食べ、自分の足で歩く身体につながります。
この記事が、今まで当たり前としてきた食事を見直し、本当の意味で身体を労るとは何かを考えるきっかけになりましたら幸いです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。









