当院には様々なお悩みの方がいらっしゃいますが、ここ最近は特に自律神経系のお悩みを抱えて来院される方が急激に増えている印象で、約3分の1の方が自律神経系のお悩みを抱えられているのではないかと感じているほどです。
また、自律神経失調症のように「〜症」とつく病名は原因不明の際につけられることが多いのですが、私は自律神経失調症は原因不明の病とは考えておりません。
何故かと言いますと、いつも患者さんにお伝えしていますように、そのような症状に悩まれる前にあなたが元気に過ごされていたり、特に問題なく私生活を送っていたのであれば、そこには必ずその症状に至るまでの「原因」があるからです。
不眠やめまい、頭痛、息苦しさ、動悸、過呼吸、火照り、倦怠感、不安感、怠さ、生理不順、便秘や下痢などの俗に言う自律神経失調症の症状に多く見られる上記の症状は、現代医学ではそれぞれ症状別に睡眠薬、頭痛薬、胃腸薬、精神安定剤などが処方され、結果的に多種多様な薬を服用し副作用に悩まれている方も少なくありません。
一方で私が考える自律神経系を含む様々な不調を改善してゆくのに欠かせない事として、体の免疫力を上げ体質改善を行うと同時に、日常生活でそのような症状を引き起こしてしまう悪習慣に気付き、そういった習慣を変えてゆくことが大切だと考えています。
自律神経とは?
自律神経には、ざっくりと交感神経と副交感神経の2つがあります。
交感神経は何かに集中している時や行動を起こしている際に優位になり、副交感神経は休息している状態やリラックスしている際に優位になります。
例えば車を発進させる際にはアクセル、停止する際にはブレーキを踏み込むように、私はそれぞれ交感神経をアクセル、副交感神経をブレーキと呼んでいます。
そして、私達人間の体は交感神経と副交感神経によって”動く、休む”を状況によって自動的に調整してくれています。
体の過緊張が自律神経失調症の原因
自律神経系の症状で悩まれている方の体の状態を確認すると、頭周りや顔周り、頸肩、胸周り、肩甲骨周辺などが硬いと言う特徴があります。
特に胸周りには肺臓といって呼吸と深く関係する臓器があるのですが、胸周りが硬いとどうしても呼吸が浅くなり、休む時やリラックスする際に重要な副交感神経へのスイッチに切り替わりにくくなることで、疲労感が抜けづらく、次第に動機や胸の詰まり感などの呼吸器にまつわる症状が現れてきます。
また、そのような方々の共通点としては
・朝が辛い
・休みの日でも緊張感が抜けない、ぐったりする
・リラックスが出来ない、リラックスの仕方が分からない
・夜になっても中々寝付けない
などが挙げられます。
これらは全て、体に過度な緊張状態が長く続くことによる「過緊張」が原因の症状です。
先程の車の例えを使いますと、過緊張の方は本来ブレーキを踏み込まなければならない状況の際にもアクセルを踏み込み続けている状態です。
当然、そのようにして使い続けた車はそのうち不具合が出るか故障してしまう事は想像がつきます。
また、これらの過緊張を引き起こしてしまう方の性格的特徴として、普段から100%や120%のように全力で頑張り過ぎてしまう方がとても多いです。
よく自律神経失調症の原因はストレスからと言われるのは、過緊張が引き起こされる程に自分自身の体に強いストレスがかかっている状態だと考えられている為です。
自律神経系と肝臓の関係
東洋医学では、アクセルとブレーキの調整を行う臓器に肝臓が挙げられます。
肝臓は血に関係する臓器で、活動する際は血液が全身を巡り体を動かし、休む際には血液は肝臓に戻り、上手くアクセルとブレーキをコントロールし微調整してくれている臓器です。
しかし、この肝臓の不調によってスイッチの切り替えが上手くいかなくなると、いつでもアクセル全開の過緊張(交感神経優位)状態が続き、体を上手く休ませる事が難しくなってしまいます。
子供がいつでもどんな場所でも眠気を感じれば直ぐに眠ることが出来るのは、このスイッチの感覚が敏感で素直であるからと私は考えています。
スイッチの切り替わりが上手くいかなる原因とお家でできること
現代は、24時間コンビニで好きな物が購入でき、自分の好きな情報や好きなものを好きな時に食べる事ができる便利な時代です。
しかし、そのような一見便利と思えるような現代の生活はかえって私達本来の心や体を健やかに保つ為の生活リズムを乱し、健康を損なわせてしまう原因となります。
現代社会の生活の中には、肝臓の働きを低下させ、常にアクセル全開の過緊張状態を引き起こしてしまう習慣が隠れています。
・目の使い過ぎ
東洋医学では、「肝は目に開く」といわれ、五臓六腑の「肝臓」と深く関わっています。
職場でのデスクワーク作業や日常生活の中で、スマホやパソコン等から得られる膨大な刺激量を長時間受け続ける機会の多い現代社会では、目を酷使し過ぎることによってアクセルとブレーキの微調整に欠かせない肝臓に負担をかけ、体に過緊張を引き起こす原因となります。
患者さんの中で、パソコンやスマホを見ると気持ちが悪くなる・眩暈がすると言った方も多く見られるのですが、それは体からのSOSのサインと思って頂ければと思います。
・お家でできること
東洋医学では24時間の内、五臓六腑が良く働くタイムテーブルがあります。
23時〜2時の間は胆嚢・肝臓の時間帯で、この時間内に眠りにつくことで、目を癒す効果や肝臓の働きを高めアクセルとブレーキの微調整をスムーズに促すよう働きかけてくれます。
また、胆嚢や肝臓は体の中を綺麗にする解毒作用にも関係しています。
東洋医学では体の中の汚れは体の不調だけではなく、イライラなどの心の面にも影響します。
この解毒作用に重要な上記の時間帯にしっかりと眠りにつくことは、イライラを次の日に持ち込まない・その日の内にリセットさせるという事にも繋がります。
反対に、この時間に目が冴えてしまい眠れない、作業が捗るという方は、ある一定以上の緊張状態が続いた事によって、体が興奮し肝臓に負担がかかってしまっているサインになります。
・添加物や甘味過多な食生活
先程もお伝えしたように、肝臓には体を綺麗にする為の解毒作用があります。
現代の添加物や甘味が多い刺激の強い食生活は肝臓の解毒作用に負担をかけ、体に過度な緊張状態を作り出してしまいます。
また、添加物や甘味には興奮を引き起こす作用があるため、口にするとなんとなく気分が上がり、やる気になる方も多いと思います。
しかし、ただでさえ緊張状態の体に過度な興奮を引き出す飲食物を口にすることで体は余計に過緊張を引き起こし、更に症状が強くなってしまいます。
・お家でできること
体に緊張感をもたらさないものや体にこたえないものは、自然のものが多いです。
ある意味、物足りないくらいのものが体にとっては負担のかからない、体に優しい食べ物になります。
初めはどんなものを食べて良いのか分からない方も多いと思うので、そう言った方に私が普段からおすすめしているのが豚肉や旬の野菜を沢山入れた豚汁になります。
変化は同じ事を続けていった過程の中で現れます。
3ヶ月程続けていくと、同じ食生活を続けたからこその変化を感じられると思います。
不調や痛みを改善するには、「今よりも症状を回復させる為の体力をつける」ことも、非常に重要です。
東洋医学では豚肉は体力の貯金を増やす食材。野菜は体にとっての薬になりますので、食べれば食べる程、体は元気になります。
・運動不足
本来、人間も動物です。
体を動かす事に喜びを見出す生き物になります。
運動と言うと、苦手意識を持つ方も多いかもしれませんが、案外運動を日常生活の中で習慣付けてゆくと表現の仕方は人それぞれではありますが、運動をしないと、「違和感を覚えるようになった。」「むずむずするようになった。」というお声も多く頂きます。
頭から得られる刺激や情報量が多く、極端に体を使う事が減った現代の社会ではありますが、私達は頭だけを使い生きている訳ではありません。
昔の方は、五感といった体の感覚を大切にしていたように、むしろ頭よりも体で感じられることが沢山あります。
体を動かすことで、気付かされる事があります。
特に子供の場合は単純で、子供は体を動かさずにいると様々な心身の不調が現れてきます。
体を動かすことで心身が落ち着き、伸び伸びとした様子に変化します。
そんな様子を見ていると、体を動かすことは人間に必要不可欠なものなのだな。と改めて思うのと同時に、大人になればなるほどに知識は増え、ついつい頭でっかちになってしまう私ではありますが、子供達を通し気付かされることや学ばされることが多くある日々です。
・お家でできること
自然に行える散歩やランニングが東洋医学では運動になります。
特に緑の自然の多い場所で行うことは目を癒す効果もあります。
また、熱は上に上がりやすい性質をもつように、普段から緊張感が強ければ強い方ほど上半身に熱がこもり、下半身(特に足先)が冷えやすい傾向にあります。
散歩やランニングなどで下半身を積極的に使う事は、上にこもった熱を下に降ろし、緊張感を和らげる事にも繋がります。
良く頂く質問の1つにピラティスやヨガ、筋トレなどの運動は行なっても良いですか?と聞かれる事が多いです。
もちろんそれらの内容にもよるのですが、基本的には筋肉に力を加える激しい動きには曲げる力が働き、リラックス状態の際には伸ばす力が働きます。
(例えば手足を広げ大の字で寝ている方を見かけたら、きっとリラックス状態で伸び伸びしているんだなというイメージを持たれると思います。)
日頃から緊張状態の強い方(過緊張の方)は無意識に体に必要以上の力が入っている事が多く、そこに更に激しい運動などを行い負荷を加えることで、かえって体に緊張感を発生させ、最悪の場合痛みが出る方やケガをしてしまう方もいらっしゃいます。
そのように方には、まずは体に力が入り過ぎないお散歩やランニングを行って頂いて、緊張が抜けやすい体になった上で、上記の運動を再開をすることをおすすめしています。
・頑張り過ぎ
普段患者さんの体を見て感じる事は、頑張り過ぎている方がとても多いことです。
ここで勘違いして頂きたくないのは、決して頑張る事は悪いことではなく、むしろ素晴らしい事です。
しかし、日頃から力が抜けなくなる程に緊張感を持ち続け、いずれ心身に不調をきたしてしまうぐらい頑張り過ぎてしまうのは、今の自分の体が受け入れる事のできる頑張るの許容量をとうに超えている可能性があります。
決して全ての不調が悪い訳ではなく、体に対する不調は、ご自身の日常の生活の中に“何か誤った習慣がありますよ。”という体からのサインです。
初めは小さな不調が現れますが、それらの小さなサインを見逃してゆくことで、何れ大きな症状が現れるタイミングがやってきます。
とある患者さんで、仕事に育児に家事に日々とても忙しくされていて、休む暇がないと言われる方がいらっしゃったのですが、私が初めて鍼灸の施術を行った翌日、40度の熱が出たそうです。
更にその次の日も微熱が出たため、結果的に3日間はお布団の中でゆっくり過ごし、その後は随分元気になったと教えて下さったことがありました。
それはあまりにもその方が多忙だった事により、体がその方を強制的に休ませる為の好転反応だったのだなと解釈しています。
・お家でできること
私が自分自身にも心掛け、患者さんにもお伝えしているのが“30%の余白をつくる”ことです。
毎日100%や120%の力を発揮するのを目標にするのではなく、70%の力で過ごすようにすることで、本当に大切な時の為に余力を残すという方法です。
例えば花が夏以外の季節にエネルギーを爆発させて花を咲かせようとしてもすぐに枯れてしまいます。
花が夏に綺麗な花を咲かせるのは、秋冬春に夏への花を咲かせるエネルギーを溜め、地道に準備を重ねてきたからです。
いざという時の為に余白をつくる。
特に年齢を重ねれば重ねてゆくほど、気をつけてゆきたいポイントだなとつくづく痛感しております。
季節の変わり目と自律神経
近年は気候の乱高下が激しく、従来の季節の変わり目というのが薄れてきていますので、今まで特に自律神経系のお悩みがなかったと言う方や体に不調がなかったという方でも自律神経系のお悩みを抱えられる方が年々多い傾向にあります。
元々自律神経系の不調を訴えられる方で普段から力を抜くことが苦手な方であれば、特にスイッチの切り替えが強いられる冬から春、夏から秋などの季節の変わり目をきっかけに大きく体調を崩される方が多いです。
季節は春夏秋冬と3ヶ月毎に移り変わるように、現在の私達の体は3ヶ月前の自分自身の過ごし方が、現在の自分自身の様子を現しています。
例えば春に大きく体調を崩されたのであれば、ご自身の体調を崩すきっかけとなった原因が冬に隠れている事が多く、秋に体調を大きく崩されたのであれば、夏に原因がある事が多いです。
そのような過去の生活を振り返えられた時に、その時の自分にとって「無理をし過ぎていたこと」や「やり過ぎていたことはないか」を一度見直されると良いです。
もしそのような自覚がないと言う方で、突然不調な症状が現れてしまったという方は、ただただ悲観するのではなく、それまでは意識されていなかった現在の“体力の限界値や許容量”を体が教えてくれたと受け止めて、是非自分自身を振り返るきっかけにして頂けたらと思います。
鍼灸治療で行っていること
当院で行っている鍼灸施術は、最低限の鍼とツボを使い、その方の最大限の自然治癒力を高めてゆく事を目的としています。
自律神経系の症状でお悩みの方には特に必要以上に刺激を与えない体に優しい施術を行なうことで、心や体の過剰な緊張を緩め、リラックス作用を引き出す施術を行っております。
現代は様々な刺激や興奮を促す情報や食事などによって、本来人間に備わっている五感(感覚器官)を鈍らせ、麻痺させてしまう場面がとても多くあります。
その結果私達はより強い刺激を求め、より強い刺激を得ることが心地良いと感覚麻痺を引き起こし、その強い刺激を求めれば求めるほど、体の感覚を鈍らせてしまいます。
確かに過激で刺激的、興奮性があるものは私達の心や体に強く反応が現れやすいです。
しかし、自分自身様々な施術を受けてきた経験や今まで施術を行ってきた経験上、強い刺激はかえって心や体に強い緊張状態を引き起こし、結果的に自然治癒力を遅らせ、症状を悪化させてしまう場面を多く目にしてきました。
それはきっと、私達が疲れている時ほど味の濃いものや体に悪い物が食べたくなり、疲れきった体に更に負担をかけるといった行為と似たものがあると思います。
施術や食事、運動、セルフケア等を1つ1つ行い五感の感覚が戻り、優しい刺激が心地良い。という事が体で感じられるようになると、体の感覚がクリアになることで小さな体の不調への気付きや、味覚や嗅覚等にも変化が現れ、今まで好みであった強い香りが苦手になったり、好きだった味が苦手になったり、苦手な味が好きになったりということが起きます。
その頃には、自然と日常の中でも体に優しい生活というのが行えるようになり、リラックスした体の状態、余白がある体の状態というのを感覚としてお分かり頂けると思います。
アクセル全開だった自分自身の過去
有難いことに現在の私は健康に携わる仕事のお陰で自分自身の心や体の状態と向き合う機会も多く、10代20代の頃のよりも現在に至る30代の方が間違いなく調子が良いことを実感しております。
しかし、そんな私も過去を振り返ると、“つい頑張り過ぎてしまう人間”の1人でありました。
ここでそれを示す証として、1つエピソードをお話しさせて頂きたいと思います。
高校生の頃の卒業文集に、その人を現す一言をクラスで集計を取り書く欄というのがありました。
そこに書かれていた私を現す一言というのが、「常に体張ってます。」でした。
今考えると、どれだけいつも全力で必死だったんだ。と恥ずかしいやら笑えるやらなのですが、クラスの友人達から見た私は、ブレーキの故障したアクセル全開人間に見えていたようです。
しかしそんなアクセル全開人間は高校・専門学校の期間中、2日続けて学校に行くものの、3日目には学校を休まなければ4日目に登校が出来ないといった日々を送っていました。
学校がある日は全力で楽しいのに、それを2日続けると糸がプツンと切れ、次の日は1日無気力状態になり、学校を休んでは次の日に回復。と言うのを繰り返していました。また、それが日によっては1日起きといった場合も少なくありません。
もちろんそういった状態ですので事前にスケジュールを入れることが難しく、その日の体調次第で予定を立てるという日々です。
当時は原因が分からず自分を責めたりもしていたのですが、今考えると“70%で過ごす、30%の余白を残す”などのバランスを取るという事が極端に苦手で、自ら心や体を乱高下させていたことで結果的にそのような状態を作り出していたのだなと理解しています。
頑張り過ぎるという癖はその方の性格、生い立ち、自分自身がとりまく家庭環境等、その他様々なことを要因としているとは思いますが、もしも体調の良い悪いがはっきりし過ぎている・心や体の状態に波があり過ぎるといった場合は、知らず知らずの内についた頑張り過ぎてしまう習慣によって、引き起こされている場合があるかもしれません。
最後に
度々耳にする血糖値スパイラルの言葉や近年の気候の乱高下、自律神経系の症状などにの不調に共通することは落差になります。
いかにアクセルとブレーキを強くかけ過ぎたのか・強く踏み込み過ぎたかによって起こります。
気候で言えば決して寒いのが悪い、暑いのが良いのではなく、全ては急激に乱高下する落差が心や体の不調の引き金となってしまいます。
私達が送る日々も、いつもいつも安定していれば言う事はないのですが、生きている以上常に安定は難しく、小さく揺さぶられながら波の中を過ごしています。
時に悲しい事や落ち込む事があっても、時にはしゃぐ事があっても、出来るだけ落差が少ない、出来るだけ穏やかな自分でありたいものです。
そういったことが、健やかな日々に繋がると思っています。
この記事が少しでも皆様のお役に立てましたら幸いです。素敵な1日となりますように。